指輪物語を英語で読む3:エルフのナイフ「つらぬき丸」

フロドがビルボから譲り受けたナイフ「つらぬき丸」は原書では「Sting」という名前だ。
Sting」というのは、蜂の針の様に先端が尖ったもので突き刺す、という意味なので、語感的には「チクリと刺す」くらいのイメージではないだろうか。





瀬田訳では「つらぬき丸」というかっこいい名前なのだが、「チクリと刺す」イメージとは少しかけ離れているようだ。それに「Sting」なんて名前を剣につけるのはちょっと素朴というかあまり教養を感じないわけだが、「つらぬき丸」ではその辺のニュアンスはすっぱりなくなっていると思う。日本の短刀で「貫丸」とかあっても不思議ではないでしょ。

ビルボが手に入れた時の「Sting」にはもともと名前がなかったのだが、蜘蛛を退治した時に、ビルボがエルフの言葉で「Maegnas aen estar nin dagnir in yngyl im」と記銘したそうな。これを英語に翻訳すると「Sting is my name, I am the spider's bane」となるそうな。ところがここで使われている「maeg」というエルフ語は「sharp」とか「piercing」という意味らしく、どうやら英語→日本語の翻訳でニュアンスが変わったのではなく、エルフ語→英語の翻訳でニュアンスが弱まっているようだ。瀬田訳の「つらぬき丸」はもとのエルフ語に忠実に訳してしまっている、ということのよう。
ちょっと真面目に翻訳しすぎのようにも思うが。

指輪物語は瀬田訳が神格化されてしまっていて、なかなか違う翻訳が許されない、という雰囲気を感じる。もっと肩の力を抜いてもいいのにね!