何かと女性が持ち上げられ、女性はツンデレどころかキレキャラばかりで、力も知性も男より上だ、みたいな世界像(「The Lies of Locke Lamora」なんて、それが鼻につきすぎて結構批判されてた)にリアリティを感じないあなた。
そんなあなたに、このシリーズはおすすめ!
The Darkness That Comes Before
面白いんだけど絶対翻訳されないんだろうな、と思う作品は多々あって、このシリーズもその一つなんだけど、いろいろ理屈っぽいし主人公が徹底的に理性的なせいで感情移入しづらい、というのがその理由だろうか。
その理性的な主人公は最初から超人として登場するのだが、世界から隔絶された文化で育てられたため、超人であっても目的を達成するために世界のことを学んでいかなければならない。
’barbarity,’ I fear, is simply a word for unfamiliarity that threatens.
作者は哲学の博士号取得を目指していたそうで、こんな警句のようなセリフがいっぱい出てくる。
How does one learn innocence?
How does one teach ignorance?
For to be them is to know them not.
みたいなね。
ちなみに、上の文はこう解釈できる。
まず最初の
How does one learn innocence?
How does one teach ignorance?
ここは「learn(学ぶ)」と「teach(教える)」が対立しているように、「innocence」と「ignorance」が対立している構造だ。
ポイントはまず「innocence」=「無罪」と思い込まないこと。
英単語を覚える時に日本語とセットで覚えてしまうと、その単語の本質が分からなくなることがある。
「innocence」というのは、犯罪(crime)だけでなく、罪(sin)に対しても潔白であることを表している。日本語だと「無垢」というニュアンスだ。ただ、文脈によっては「無知」のニュアンスになることもある。文脈が否定的/批判的な場合にね。「無垢」というのは言い換えれば「何も知らない子供みたいなもの」ということだもんね。
ということは、ここを直訳すると
どうやったら人は無垢を学ぶことができるのか?
どうやったら人は無知を教えることができるのか?
となる。
何だか難しいことを言っとるな、ということだ。
そして
For to be them is to know them not.
とくる。
ここの「For」は「というのは」ということだ。
前代の疑問文二つは、「人は無垢を学んだり、無知を教えたりなんてできないよ」ということを言ってるわけなので、「というのは」とつけて理由を語ってるのだ。
その理由が「to be them is to know them not」。
じゃあ「them」は誰やねん、となるかもしれないけど、これは「innocence」や「ignorance」を学んだ人、ということだ。
つまり「無垢や無知である人」というのは、そもそも「無垢」も「無知」も知らない、のであるから、ということなのだ。
しつこいけど、何だか難しいことを言っとるな。
自分で英文を書いたら、きっとこんな文章にはならないよなあ、と思うと、なかなか面白い。
「to be them is not to know them」とかやりそうな気がする。最後に「not」が来ると、ここが強調されるので、いいね!
世界観がしっかりしていて、大人にも読み応えがあるファンタジーを読みたいなら、ぜひチャレンジしてみてね。
ちなみに、第1巻のタイトルは「The Darkness That Comes Before」。
この文章は作中では次のような意味で使われる。
“Interruption is weakness, young Kellhus. It arises from the passions and not from the intellect. From the darkness that comes before.”
“I understood, Pragma”
The cold eyes peerd through him and saw this was true.
“Then the Dunyain first found Ishual in these mountains, they knew only one principle of the Logos. What was that principle, young Kellus?”
“That what comes before detaimines that which comes after.”
「Pragma」と呼ばれる人物が、弟子である「Kellhus」に話をしている途中で、Kellhusが口を挟んだので、たしなめる場面だ。
「Interruption is weakness」とは、手厳しいのだ。
因果律を極限まで極めた時、(なぜか)超人が生まれる。そんなシリーズなのだ!