指輪物語を英語で読む(1)

傑作と言われてる作品を面白く読めないのは自分の責任だ、そう思ってた時期もありました。


どこまで書いたっけ?
そうそう、どぶ板通りのライブハウスでバイトしてた時の話だった。
バイトの先輩にKさんという人がいたんだけど、いつもはにこやかで親しみやすいのに、何がきっかけで切れて暴れるかわからないというジェックコースターみたいなタイプだった。

どぶ板通りってのは米軍基地に近くて、今はどうかわからないけどその頃は「刑務所に行くかネイビーに入るか選べ」って言われてきたような血気盛んな連中が、なけなしの小銭で飲める店に集まってワイワイ楽しく飲んでる。そんな街だった。



そのライブハウスは、ライブをしてるよりもハードロックをかけてる時間の方が長くて、基地からのお客で成り立ってるような店だった。
そのKさんが働き始めたとき、英語がからっきしダメだったらしくて、帰る客に対して「Thank you!」って言おうとして、間違えて「F○ck you」って言って思い切り殴られた、って話を聞いたことがある。
とはいえ、その話をしてくれた人によると「殴られた人間が水平になって飛んでくのを初めて見た」っていうことなので、真偽のほどはわからないし、Kさんに「水平に飛んだって本当ですか?」って確認するのは、自分が水平に飛ぶことになるわけで。


英語って必要だよね!

ある程度はね。
何もネイティブになる必要はないんだけど。

ちょうどその頃、指輪物語 の日本語版を手に入れて読み始めた。
そして、「馳夫」という登場人物が出てきたあたりで、中世風の世界観にチャンバラものが乱入してきた様相を見せ始める。

混乱した。

しらけたし、正直つまらん、と思った。

(翻訳の良し悪しを語るのは、宗教論争に近いものがあるように思うし、ここで意図することではない。いち読者の体験として読んでください)

その後、就職して上京するわけだけど、東京砂漠(by クールファイブ)で僕の心を癒してくれるオアシスはいつでも本屋だった。
ある日、いつも行く本屋の角にある小さな洋書コーナーで指輪物語の原書「The Load Of The Rings」を見つけた。
最近多い、3分冊にしたやつではなく、分厚くて読み応えがありそうなやつだった。
(本好きの方ならわかってもらえると思いますが、本は厚ければ厚いほど良いのです)

それは、指輪物語の映画化を記念して出版されたペーパーバックだった。
と言っても、この前映画化されたCGバリバリのすごいバージョンではなく、アニメーションバージョンのやつだ。知らない人の方が多いと思うし、知らなくて良い、ひどい映画なのだ。



でも、翻訳版で一度は挫折した指輪物語なんだけど、心のどこかでは「これは絶対すごく面白いはずだ」と思ってたんだろうね。英語の本はそれまで一度も読んだことなかったのに、その場でお買い上げですよ。

でね、買ったからには頑張って読んでみるわけだけど、なかなかハードルが高く、結局最後まで読み通すのは10年以上あとのことになっちゃう。

なんどもチャレンジするけど「旅の仲間(The Fellowship of the Ring)」まで読むと、「もう十分よんだね」感が溢れ出てきてたまんないわけ。

最初はもっと読みやすくてグイグイ読ませる本を読んだほうがいいね。

ということで、指輪物語。ストーリーそのものより、世界観とか「英語の豊かさを味わう」っていうスタンスのほうがよさそう。



ところで。

小説の書き出しって、高校生くらいの頃にいろいろ覚えるよね?
「月日は百代の過客にして、しかももとの水にあらず」とか。

おそらく英語圏の高校生だったら、指輪物語の出だしも同じように覚えるんじゃないかな。いや、知らんけど。
これが、その書き出し

When Mr. Bilbo Baggins of Bag End announced that he would shortly be celebrating his eleventy-first birthday with a party of special magnificence, there was much talk and excitement in Hobbiton.

洋書を読みなれてないと、「いきなり長い!」ってなりそうだけど、大丈夫。
文章を読むのは、コツがあるよ。

それがこれ。
チャンク(塊まり)を意識する

慣れてないと、日本語に翻訳しながら行ったり来たりしながら読むでしょ?
いったんそれをやめて、文章の並び順通りにカタマリの意味を理解しながら読んでいこうよ、ってこと。

さっきの指輪物語の書き出しをチャンクを意識しながら読むと、頭の中では(人によって違うかもしれないけど)こんな感じになる。
チャンクごとに心の中で休符を入れると、読みやすいし意味が入ってきやすいはず。

When {
(Mr. Bilbo Baggins of Bag End) announced
that {
he would shortly be celebrating his (eleventy-first birthday)
with {
(a party of special magnificence),
}
}
}
there was much talk and excitement in Hobbiton.

余計わかりにくい?
うーん、もっと良い書き方があるかどうか考えてみるね。

ちなみに、さっきの文章の意味は「ビルボ・バギンズが111歳の誕生日パーティーを近々やるんで、って言ったところ、近所のみんなえらい盛り上がった」
みたいな意味ですわ。

自分で自分の誕生日パーティ開くのね。


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