映画だけ見て原作を読んでない人は知らないと思うけど、指輪物語には「トム・ボンバディル」という陽気なおっちゃんキャラが登場する。
Old Tom Bombadil is a merry fellow,
Bright blue his jacket is, and his boots are yellow.
「明るい青のジャケットに黄色のブーツ」……
ストーリーにあまり関係がないのに、なぜか印象に残る。個人的にも指輪物語で一番印象に残っているのは、この「トム・ボンバディル」だ。
しかし、このおっちゃん、あまりにもストーリーに関係ないので、映画にも出してもらえなかった。かわいそうに。
ちなみに、引用したのはトムが歌う歌のひとつ。自分のことを歌っちゃってます。
歌なのでぜひ声に出して音読してみてほしい。
「Bright blue his jacket is, and his boots are yellow」なんて気持ちいいよね?
これが「His jacket is bright blue, and his boots are yellow」だったら、面白くもなんともない文になる。奇抜な格好なのは変わらないとしても。
そんでもって、困った時は自分を呼び出せと言って、呼び出すための歌を教えてくれる。
Ho! Tom Bombadil, Tom Bombadillo!
By water, wood and hill, by the reed and willow,
By fire, sun and moon, hearken now and hear us!
Come, Tom Bombadil, for our need is near us!
本当に来てくれればいいけど、緊迫した場面でこれを歌ってトムが来てくれなかったら、ちょっと恥ずかしいね。
(ちなみに、これを読むと「12月物語」で指輪を転がすシーンを思い出す)
「困った時は自分を呼び出せ」というくらいなので、よっぽど自分に自信がありそうだ。
None has ever caught him yet, for Tom, he is the Master:↓
His songs are stronger songs, and his feet are faster.
None has ever caught him yet(トムを捕まえたものはいない)
for Tom, he is the Master(トムにとっては、自らが主人なのだ)
日本語で「主人」というと何となく「旦那様」とか「親方」的なイメージを持ちそうな気もする。
skillに対するmasterなのか、slaveに対するmasterなのかでニュアンスも違ってきそうだ。
ここでは、「捕らえる」という話が出てるので、slaveに対するmasterで、トムは「奴隷」ではなく、「自由」なのである、という意味だろう。
ちなみに、
Be the master of your own lifeだと、「自分の人生は自分で切り開け」みたいな意味になる。
そして、これに対して、なぜ捕らえることができないのかが次に続く。
His songs are stronger songs, and his feet are faster.
「彼の歌はより強い歌で、彼の足はより速い」(からだ)
「足」はそのままの意味だとして、「歌」には何かの力があることを伺わせる。
(ちなみに、トムは歌ばっかり歌ってる)。
トムを捕まえようとする「何者か」が持つ「歌」(と同様に力を持つ手段)より強力な「歌」を持ってるから「自由」でいられるだ、ということなのかな。
「トム・ボンバディル」は何者なの?というのは諸説あるので読んだ人の想像に任せるとして、作者のトールキン自身は「自分自身にもわからない”大事ななにか”を表している。なので物語中で役に立たないとしてもそのままにした」という意味のことを語っている。
「大事ななにか」って何かな?
トム・ボンバディルは謎が多く抽象的にことばっかり言うので、深読みしようとするといくらでもできそうなところが、さらに魅力になっているのかもしれない。
自分のなかでは勝手に「老子」的なイメージで想像している。
原作を読んだことない人は、ぜひ英語でチャレンジしてみてね。